~住宅ローンを受けた場合は税金が戻ってくる?税制改正での変更点も紹介~

【執筆者】
税理士法人 耕夢 しのだ会計事務所
代表 篠田陽子

住宅ローン控除とは

個人が住宅ローン等を利用してマイホームの新築、取得又は増改築等をした場合で、一定の要件を満たすときは、所得税の減税を受けることができる制度です。
一定の要件の下、その取得等に係る住宅ローン等の年末残高の合計額等を基として計算した金額を、居住の用に供した年分以後の各年分の所得税額から控除(住宅借入金等特別控除)することができます。
控除額は、住宅の取得などにかかったローンの年末残高の合計額に基づいて計算します。
13年間または10年間にわたり控除が可能です。
また前年分の所得税で控除しきれなかった場合は、翌年度の個人住民税で控除されます。

2024年からの住宅ローン控除は、対象となる年末ローン残高の上限額が2023年までと同様、住宅の性能や入居年によって区分されます。

住宅ローン控除率は?

一律、0.7%です。
住宅ローン残高が年末に2000万円だったとすると、控除額は、
2000万円×0.7%=140,000円
となります。

住宅ローンの控除の期間と控除の上限額は新築か中古か家の性能によって変わります

<新築住宅の場合>
下記の表のとおり、ローン残高の上限額は住宅の性能によって異なってきます。省エネ基準に適合しない「その他の住宅」の場合は、ローン残高の上限は2000万円ですが、2024年中に建築確認を受けないと、その新築住宅は控除対象外となります。

また、今回の税制改正により子育て世帯と若者夫婦世帯の場合は、2024年に入居した場合の上限額が引き上げられました。子育て世帯とは、19歳未満の子供がいる世帯、若者夫婦世帯とは、夫婦いずれかが40歳未満の世帯です。あとで詳しく説明します。

住宅ローン控除の適用を受けるには?

(1)住宅の新築等の日から6か月以内に居住しており、控除を受ける年分の12月31日まで引き続き居住していること。
(2)住宅の床面積(注1)が50平方メートル以上であり、かつ、床面積の2分の1以上を専ら自己の居住の用に供していること。
(3)この特別控除を受ける年分の合計所得金額が、2,000万円以下であること。
※所得金額とは?
給与所得や上場株式等の配当金、利子所得、雑所得、退職所得などを合算した総所得金額のことを言います。
通常、給与収入しかない場合、金額から必要経費を差し引いた残額を言います。サラリーマンの場合の所得とは、給与所得を言います。給与や賞与などの収入の額から給与所得控除額を差し引いて所得額を算出します。
(4)床面積の2分の1以上が、専ら自己の居住の用に供されるものであること。
(5)民間の金融機関や独立行政法人住宅金融支援機構などの住宅ローン等を利用していること。
(6)住宅ローン等の返済期間が10年以上で、分割して返済するものであること。
注:家屋の床面積が40㎡以上50㎡未満(令和5年12月31日までに建築確認を受けたものに限ります。)であっても控除を受けることができますが、その場合は、所得要件が1,000万円以下となります。
但し、省エネ住宅に該当する場合は、令和6年12月31日までに建築確認を受けていれば特別控除の適用が可能です。

手続き・申告等の方法

住宅借入金等特別控除の適用を受けるための手続は、控除を受ける最初の年分と2年目以後の年分とでは異なります。

(1)控除を受ける最初の年
控除を受ける最初の年分は、必要事項を記載した確定申告書に、下記の「提出書類等」に掲げる区分に応じてそれぞれに掲げる書類を添付して、納税地(原則として住所地)の所轄税務署長に提出する必要があります。
(2)2年目以後
2年目以後の年分は、必要事項を記載した確定申告書に下記の「提出書類等」の「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書」(付表が必要な場合は付表を含みます。)のほか、「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」(電磁的記録印刷書面を含みます。2か所以上から交付を受けている場合は、そのすべての証明書をいいます。以下同じです。)を添付することで特別控除の適用を受けることができます。

また、給与所得者は、控除を受ける最初の年分については、上記(1)のとおり、確定申告書を提出する必要がありますが、2年目以後の年分は、年末調整でこの特別控除の適用を受けることができます。

この場合、税務署から送付される「年末調整のための住宅借入金等特別控除証明書兼給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書」と「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」を勤務先に提出する必要があります。

2024年1月~の住宅ローン控除の変更点

1.省エネ基準を満たさない新築・買取再販住宅は適用対象外
2024年入居以降から、住宅の性能によって控除試算が変わってきています。建築される住宅が必ずこの基準を満たす必要はありませんが、2024年の所得税確定申告で住宅ローン控除を受けようとする場合には、省エネ基準を満たさない新築住宅は住宅ローン控除の対象外となりました。
2.子育て世帯・若者夫婦世帯に対する控除が拡大
2024年度の税制改正では、子育て世帯や若者夫婦世帯に対する控除が拡充されました。対象となるのは、「19歳未満の子を有する世帯」または「夫婦のいずれかが40歳未満の世帯」で、それぞれ他の世帯よりも借入限度額が高く設定されています。
より多くの住宅ローンに控除が適用されるのは、「頭金を少なくしたい」、「なるべく手元にキャッシュを残したい」と考えている子育て世帯や若者夫婦世帯にとってうれしい制度です。
ただし、借入限度額が拡充されるのはやはり、新築もしくは買取再販住宅の省エネ基準を満たす住宅のみで、省エネ基準を満たさない住宅や中古住宅に関しては優遇を受けることができません。
3.新築住宅の床面積要件を「40㎡以上に緩和する措置が延長
住宅ローン控除の適用条件のひとつに、「床面積が50㎡以上あること」というものがありますが、新築住宅については合計所得金額1,000万円以下の人が借り入れを行う場合は「40㎡以上」に緩和される措置が設けられていました。
当初この緩和措置は2023年末までとされていましたが、2024年度の税制改正において建築確認の期限が2024年末までに延長されています。住宅ローン控除が適用される住宅の範囲が広がるため、一人暮らしや二人暮らし用の住宅を購入する場合でも、所得税や住民税の税負担を軽減できる可能性があります。

~住宅を購入するとき、親や祖父母から資金援助を受けた場合は一定金額が非課税に~

贈与を受けた人ごとに省エネ等住宅の場合には1,000万円まで
それ以外の住宅の場合には500万円までの
住宅取得等資金の贈与が非課税となります。

贈与税とは?「個人から財産を受ける際にかかる税金」。

贈与とは、自分の持っている財産を無償で相手に与えて、贈与者(贈与する人)と受贈者(財産を受け取る人)の双方の意思確認があって成立します。この贈与が個人間で行われたときにかかってくる税金が贈与税です。1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与に対して課税されます。課税されるのは受贈者です。
課税方式には「暦年課税」と「相続時精算課税」があり、それぞれに非課税枠があります。この非課税枠の範囲内であれば贈与税はかかりません。

贈与税の課税方式

1.暦年課税
1年間に受け取った財産の合計額から110万円を控除した額に下記の税率を乗じて贈与税を計算する方法です。110万円以下ですと、贈与税の支払い義務はありません。
<特例税率>
贈与を受けた年の1月1日現在、18歳以上の子ども(または孫)が親(または祖父母)から贈与を受けた場合です。それ以外の贈与の場合は、「一般税率」に基づいた計算が必要で、特例税率と税率が異なってきます。

基礎控除後の課税価格 税 率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1000万円以下 30% 90万円
1500万円以下 40% 190万円
3000万円以下 45% 265万円
4500万円以下 50% 415万円
4500万円超 55% 640万円


<一般税率>


基礎控除後の課税価格 税 率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1000万円以下 40% 125万円
1500万円以下 45% 175万円
3000万円以下 50% 250万円
3000万円超 55% 400万円


2.相続時精算課税
60歳以上(注)の父母(または祖父母)から18歳以上の子(または孫)に対して、贈与時の税金負担なく贈与が可能な制度です。受け取った財産の合計額から2500万円を差し引いた額に贈与税がかかります。税率は一律20%です。注意しなければならないのは、のちに贈与をした人の相続が発生したとき、相続財産に加算され、この財産は相続税の課税対象になり、精算されます。贈与者ごとに暦年課税贈与に代えて選択ができますが、相続時精算課税制度の適用を行った場合、その贈与者からの贈与に関して暦年課税贈与には戻せません。
令和6年1月1日以降の相続時精算課税贈与につき、受贈者一人当たり、年間110万円の基礎控除が認められました。
注:住宅取得等資金の非課税制度を適用し、相続時精算課税制度を適用する場合は60歳未満でも可能。

受贈者 贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の子または孫
贈与財産 贈与財産の種類、金額、贈与回数の制限なし
贈与税課税 特別控除額(特定贈与者ごとに類型2500万円)を超える額に対して20%の贈与税が課税。なお、特別控除額は、贈与財産の価額から基礎控除(年間110万円)を差し引いた額により算出。

(計算例)
ケース1 父親から3000万円」の相続時精算課税贈与
3000万円-110万円=2890万円
(2890万円-2500万円)×20%=78万円

<手続き上の留意点>
・適用初年度において贈与税の申告期限(3/15)までに相続時精算課税手選択届出書の提出が必要

住宅取得の贈与の非課税の適用を受ける場合

父母(祖父母)から18歳以上の子(孫)への贈与により、居住するための住宅の新築・中古購入・リフォームを行った場合に1,000万円または500万円までの贈与が非課税になる制度です。非課税とされた資金額は贈与者に相続が発生したときの相続税の課税価格の計算での加算等の対象にはなりません。



*令和6年1月1日から令和8年12月31日までの贈与


省エネ等住宅 1000万円
上記以外 500万円


過去住宅取得等資金贈与の非課税制度を適用しているときは、原則として過去に適用した非課税額を1000万円(または500万円)から控除します。 ※省エネ等住宅とは…耐熱等性能等級5以上かつ、一次エネルギー消費量等級6以上。

<税額計算>
(住宅取得等資金の金額-住宅取得等資金の非課税限度額+そのほか同年に贈与を受けた額-暦年課税贈与の基礎控除)×税率(*特例税率)

<計算例>
父から2000万円、母から300万円の贈与を受けて、全額を住宅の取得に充てた。省エネ住宅に該当する。
(2000万円-1000万円)+(300万円-110万円)=1190万円
1190万円×40%-190万円=286万円

<対象となる住宅用家屋とは>
・新築または中古購入した家屋の登記簿上の床面積が40㎡以上240㎡以下。
・床面積の2分の1以上を受贈者の居住の用に供している
・次のいずれかに該当すること
a建築後使用されたことがない住宅家屋
b昭和57年1月1日以後に建築されたもの
c建築後使用されたことがある住宅用家屋で、bに該当せず、耐震性について一定の証明がされたもの
d建築後使用された住宅用家屋で、b,cに該当せず、耐震要件を満たすための一定の工事が取得期限までに実施されるもの

<契約・入居時期>
・自己の配偶者、親族等の一定の特別の関係のある人から住宅用家屋を取得または請負契約により新築若しくは増改築したものではないこと。
・贈与を受けた翌年の3月15日までに住宅取得等資金の全額を充当し、住宅となる家屋を取得すること。
・新築の場合は、贈与を受けた年の翌年の3月15日までに工事が完了または工事完了に準ずる状態(注)であること。中古購入の場合は同日までに引き渡しを受けていること。
※注:「新築の工事の完了に準ずる状態」とは…屋根(その骨組みを含む)を融資、土地に定着した建造物として認められるとき以後の状態。
・贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋の居住すること又は居住することが確実であると見込まれること。(贈与を受けた年の翌年12月31日までにその家屋に居住しないときは、原則として特例の適用不可。修正申告が必要)

<手続き要件>
贈与を受けた翌年の3月15日までに贈与税の確定申告を行うこと。

<申告時に必要な書類>
・受贈者の登記簿謄本
・源泉徴収票
・新築工事の請負契約書写し、売買契約書写し
・住宅家屋に関する登記事項証明書(土地取得がある場合は土地の分も含む)
・省エネ住宅棟の新築または中古購入の場合(次のいずれか)
 a.住宅性能証明書、建設住宅性能評価書の写し、住宅省エネルギー性能証明書
 b.長期優良住宅建築等契約等の認定通知書の写しと住宅用家屋証明書写しか認定長期優良住宅住宅建築証明書
 c.低炭素建築物新築等計画の認定通知書の写しと住宅家屋証明書又は帝丹と住宅建築証明書
・中古購入の場合で、昭和57年1月1日以前に建築され、耐震基準を満たすものまたは、耐震改修工事を行った場合
 次のいずれかの書類
 A.耐震基準適合証明書
 B.建設住宅性能評価書の写し
 C.既存住宅売買瑕疵担保責任保険契約が締結されていることを証する書類

住宅ローン控除特例と住宅取得等資金贈与の併用について

住宅取得等資金贈与の非課税を受ける人が、所得税の住宅ローン控除特例の適用を受ける場合でも住宅ローン控除の対象になります。
しかし贈与を受けた場合は、住宅ローン控除の計算で使う、「取得対価の額」が変わってきます。
住宅ローン控除の計算は、「住宅ローン等の年末残高」と「住宅取得等の対価の額」を比較して少ない金額の0.7%を控除することができます。住宅取得等資金贈与を受けた場合は、贈与を受けた金額の非課税枠を取得価額から控除します。

<計算例>
・住宅価格 4000万円
・受託資金の贈与特例による受贈額 1000万円
・年末住宅ローン残高 3500万円
4000万円-1000万円=3000万円
3000万円<3500万円 →3000万円
3000万円×0.7%=21万円

「住宅ローン控除の額はローンの年末残高の0.7%」と考えていると、控除額が思ったより少なくなってしまいます。贈与を受けた場合は、今後の資金計画や家計費に大きな影響が出てしまいますので注意が必要です。

~おわりに~

親が子に(あるいは祖父母が孫に)、資金援助をしようと考えた場合、贈与税が負担になるということは皆さん広くご存じかと思います。
この記事で解説してきたように住宅取得に関しては、大幅な贈与税の軽減になりますし、住宅ローン控除の特例を活用することで、所得税が還付されます。 
しかし、取得する住宅の要件は、所得税・贈与税のどちらに対しても年々、省エネ要件が厳しくなってきました。
どちらの優遇措置を受ける場合にも、要件がありますのでしっかり理解しておきましょう。

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